デジタルネイティブと私

「何学者ですか?」と聞かれると答えに窮する。まあお茶を濁した感じで「経営学者」というしかない。だが、私は「情報の価値とその収益化」というのが長きにわたる研究テーマであって、そのなかでネットサービスの流行廃りやそこでのカルチャーも気になるし(社会学者や人類学者的視点)、ネットビジネスのビジネスモデルや財務諸表、あるいはオープンソースの組織論も気になる(経営学者視点)人間だ。


Webの世界を徘徊すること自体も嫌いじゃないし、情報のことを考える上で、萌芽的現象が現れやすいWebの世界とは今後もつきあっていく可能性が高い。でもWebを離れて全然別の具体的ケースに入れ込むようになる可能性はある。では、もし私がWebの世界から離れていくとしたら、何がきっかけになるのか。ということをこの「デジタルネイティブが世界を変える」を読んで考えることになった。

デジタルネイティブが世界を変える

デジタルネイティブが世界を変える



この手の「デジタルネイティブもの」は英語圏ではずいぶん出版されており、私も"Born Digital"をパラパラとめくってはいたが、

Born Digital: Understanding the First Generation of Digital Natives

Born Digital: Understanding the First Generation of Digital Natives

やはり日本語で読めるというのは助かる。思った以上に分量は多かったが、すぐ読めた。


で、結論から言うと、「カスタム化」、「マルチタスク化」、「スピード」というあたりで「もうついていけん」となったら、自分はWebから離れていくかもなと感じたしだいである。もちろん、「ついていけん」というのはナンセンスでもあって、プロトコルさえ守っていれば、ということで、さまざまなアプリケーションがあるわけだから、「ついていけん」などと言わずに自分にあったものだけ利用すれば良いとも言えるわけである。


ではどのように分析したかだが、『デジタルネイティブが世界を変える』の中に、「ネット世代の8つの行動基準」というのが出てくるので、それを用いて自己判定をしただけの話。ちなみにこの本での「ネット世代」とは、1977年から1997年までに生まれた世代でかなり幅広い。上はすでに32才なので、べらぼうに私との年齢差があるわけではない。


1:自由
ネット世代は同じ職場にずっといようとは思っていないし、勤務形態も自由であるべきだと考えている。また多様性に対する許容度も高い。

私のデジタル・ネイティブ度は高い。今の職場はすでに4つ目だ(もうあまり変えないと思うけど)。しかも合間合間で働くのをやめて学校に行った経験もある。今の仕事も自由度の高い仕事だから選んでいる。過去には茶髪で中途採用の面接を受けていたように、外見にはこだわらず、多様性にも寛容な方だ。


2:カスタム化
ネット世代はハードやソフトを自分向きにカスタマイズする。それは自身のパーソナリティの表現である。アバター購入などもこの流れ。

私のデジタル・ネイティブ度は低い。ケータイの着メロも利用していない(というのはいつもバイブのみだから)。ブログのスタイルシートをたまに変えることはあっても、アバターを買ったことはない。カスタマイズするよりも、結局は既製品なんだが、なるべく人と違う商品を買おうとする典型的な80年代の消費社会世代である。音楽の趣味もPOPSである。ただし本はかなりニッチなものも買います。


3:調査能力
ネット世代はウェブ上の膨大な情報に接する中でその真偽を判断する能力を身につけている(これについてはホントかよ、と突っ込みたくなるが)。企業のヤラセマーケティングなどもわかるという。

私のデジタル・ネイティブ度は高い。ずっとUGCとかCGMの研究をしているし、その前はマスコミの世界で権力によって情報が操作される様子も見てきたから、メディアリテラシーは高い方だ。学生がコピペでレポート出してきたら見つける能力も高いと思う。


4:誠実性
ネット世代は正直であり、透明性を維持し、約束を守ることを高く評価する。

私のデジタル・ネイティブ度は高い。「色々と飾り立ててもばれる」という信念にもとづいて日々暮らしている。前述のとおり自由を好むため、面倒くさいイメージ作りや、仕事獲得のためのコネ作りなどは好まない。それなら好きな本を読んだり昼寝をする方が好きだ。また学生との面談の時間などには遅れない。彼らの時間もきちんと尊重する。私の方がエライから彼らの予定をいつでも変更できるというような考えは一番愚かだと思っている。


5:コラボレーション
ネット世代はチャットでコラボレーションするし、マルチユーザーのオンラインゲームでも協力する。場合によっては企業の製品開発に協力したりする。

私のデジタル・ネイティブ度は中程度。「民主化するイノベーション」というような話はずっと研究でも追ってきているし、基本的にそのような美しい世界には惹かれる。だが、自分がそのような活動にコミットしているかというとそうは言えない。同期メディアに向かうウェブには違和感をやや覚えるし、すでに述べたように無用な人付き合いは嫌いである。集中して仕事をするときはメーラーも立ち上げないし、メールサーバーへの自動巡回の設定もなしである。チャットはほとんど利用しない。ただし、親しい仲間とのコラボレーションは大好きである。


6:エンターテイメント
ネット世代にとって仕事は楽しいものでないといけない。生計のための仕事が同時に楽しくあるべきである。また仕事中にオンラインゲームで遊んだり、SNSを見ているのは自然なことである。マルチタスクを彼らは自然にこなせる。

私のデジタル・ネイティブ度は中程度もしくは低。理想的には仕事は楽しくあるべきと思っている。仕事は人生のかなりの時間を占めてしまうので、ならば好きなことを仕事にした方が良いだろうという発想だ。ただし、やらないといけない仕事をきっちりやらない人にはかなり厳しくあたる。前職でイメージすると、仕事が遅れ気味の同僚が、職場でオンラインゲームで遊んでいたら腹を立てると思う。そういう意味では、エンターテイメントというよりは、勤勉的エートスの持ち主である。


7:スピード
ネット世代は瞬時の応答を期待する。仲間が即座に返信してこないと不安になったりイライラする。

私のデジタル・ネイティブ度は低い。なぜ私がWebや電子メールを利用するようになったかの理由に、「それが非同期だったから」というものがある。テレビ局の編成の人間の一部に見られた「俺たちが大衆の行動パターンをコントロールしている」という考え方は嫌いだったし、電話で自分の読書が中断されるのも嫌だった。自分から好きな時に情報を取りに行けばよいというのがWebの魅力だった。ケータイメールでもすぐに返信しようとは思わないし、twitterで知り合いがフォローしてきても、むやみに自分からはフォローしない。FaceBookもインターフェースが変わってからほとんど使わなくなった。


8:イノベーション
ネット世代はイノベーションのスピードが速い環境下で育ったため、すぐに最新版の製品を使いたがる。またイノベーションを起こすためには若い世代の意見を採り入れるべきと感じている。

私のデジタル・ネイティブ度は中程度。もちろん商品分野にもよるが、私はさほど新しい物好きではない。新しくて面白いネットサービスは探しているが。一方、若い人の意見を採り入れるべきという考え方には賛同する。実際にかなり若い人の意見を聞くし、逆に上の世代が私の意見を聞かずにイライラすることも多々ある。


冒頭では、「カスタム化」、「マルチタスク化」、「スピード」というあたりで「もうついていけん」となったら、自分はWebから離れていくかもなと感じたと書いたが、一方で、メンタル的にはけっこう「ネット世代」と近いと思ったのも事実。


これを書いていて思い出したのが、かつてのこのエントリー。「自分のできる範囲で無理せず言行一致」というスタイルは「ネット世代」に近いのだな。