『閉じこもるインターネット』
閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義
- 作者: イーライ・パリサー,Eli Pariser,井口耕二
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/02/23
- メディア: 単行本
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僕がフェイスブックを愛せない理由は、そこの流れる情報の多くが私的なコトすぎるから。また何らかの事情でそれを利用できない人に対する配慮がない感じも気に入らない。さらにオープンなWebと付き合ってきた自分としては巨大な閉じた空間がWebにできるのもあまり良い気はしない。
でもイーライ・パリサーが危惧するのは、フェイスブックのそういうところではなくて(一部関係するが)、そのパーソナライズ化だ。フェイスブックのNewsfeedのデフォルト設定では、エッジランクというアルゴリズムによってその人が興味を示すだろうコンテンツが優先的に表示される。仮にtwitterのように時系列で並べようとしても実は表示されないコンテンツがある。
その人が興味を示すだろうコンテンツのうち、一部がクリックされ、「いいね!」されればそれがまた推奨の精度を上げ、究極的にはあなたの見たいものだけがそこには表示されるようになる。ニコラス・ネグロポンテが「Daily Me」と呼んだものだ。それによりわれわれは知らなくてはいけない/話題にしなければいけない話題から遠ざかり、ついには触れなくなる。それが民主主義の危機につながるというのだ。
パーソナライズ化ということではグーグルも当然のことながら標的に挙がる。「閉じこもるインターネット」とは検索エンジンにクロールされない空間のことばかりを指しているわけではない。原題の「Filter Bubble」とは情報のフィルターにくるまれたシャボン玉を想像してもらえばよいだろう。グーグルもログインして使えば、今では表示される検索結果は人によって大きく異なる。クリックした検索結果の履歴からその人がクリックしそうな検索結果がカスタマイズされて表示される。最近ではSearch Plus Your Worldによって、自分が「+1」したコンテンツやGoogle+で自分がサークルに入れている人物がシェアしたコンテンツなどが優先的に表示されるようになっている。
このパーソナライズ化、より広く言えば「コード」が民主主義を脅かすという議論はキャス・サンスティーンやローレンス・レッシグらがかねてから展開していたものである。とはいえ、技術が社会に浸透してきた段階で、普通の人には見えにくいパーソナライズ化の現状とパーソナライズ化がどのようなアルゴリズムによって実現されているのかが一切公開されない現状を大きな課題として指摘したこの啓蒙書には一読の価値がある。「心地良いWeb」には落とし穴があるのだ。