アイスタイル/@cosmeと私
化粧品クチコミサイト@cosmeを運営するアイスタイルが東証マザーズに上場した。初日終値が1411円となり、企業価値は86億円となった。この企業は僕にとっては特別な存在なので少し書いておこう。
僕はUser Generated Mediaがどういう収益モデルを組合せていくことで収益を伸ばしていくのかをずっと追っている。「ユーザーコンテンツの収益化」というテーマだ。最初にまとまったデータを集めたのが2001年のことで、2001年9月17日にCEOの吉松徹郎さんと@cosme主宰の山田メユミさんと初めて会っている。それ以来の付き合いで、吉松さんとは毎年事業を振り返りながらご飯を食べる間柄だ。
初めて会った時に、吉松さんに言われたのは「佐々木さんの『コミュニティ・アライアンス戦略』(2000年)はとても熱心に読んだ。ユーザーの生んだ情報価値を経済価値に変えていくのはまさにアイスタイルのテーマで、なぜこの本の事例にうちが取り上げられないのか不満に思った」ということだった。
たしかに僕が本の中で提案していたように、アイスタイルは@cosmeというネット・コミュニティ運営をリードする山田さんと、その情報価値をお金に換えることを考える吉松さんという二頭体制をとっていた。リーナスとレッドハットのCEOであるロバート・ヤングが別であったように。収益化にもタイアップ広告で当時それなりに成功していた。でもなぜ僕が2001年以前にアイスタイルや@cosmeに接近しなかったのかは覚えていない。もちろんその存在は知っていたけれど。化粧品を扱うサイトでユーザーとして馴染みがなかったからかな。
ちなみに当時の僕は研究者ではなく、NTTデータグループの経営コンサルタントで、実はUGMやWeb開発企業への投資業務も担当していた。その一環で、UGMで将来性があると思われたアイスタイルにもNTTデータから5000万円を投資した。2002年に入ってから業務面でNTTデータとアイスタイルは協力するようになっており、それを経て2003年6月に出資と相成った。デューディリジェンスはNTTデータが外部機関も使ったが、僕も担当した。
当時はアイスタイルの資金繰りがあまり芳しくない状況で、投資家も2000年春以来ネットビジネスにかなり腰が引けていて、ましてやUGMなんて儲からないだろというのが常識だったので、このお金はとてもありがたがられた。SNSが一気にユーザーを集めるにはまだ2年半以上あったものね。別にこっちは慈善事業でやったわけでなくて、絶対に化粧品分野のUGMというのはお金になると思ったし、何しろCEOが良かったので投資したのだけれど。今回、東証でのセレモニーにもご招待されたのだが、在サンディエゴなので断念した。あー残念。
吉松さんは、ビジネス(収益)モデルおたく。ものすごいアイディアマンだが、いつでも事業をしかけるのが早すぎだった。たとえば今でこそ「ビッグデータ」とか言われて期待されるようになった領域だが、@cosmeに集まるデータの分析ツールをASPサービスとして化粧品メーカーに2002年から販売していた。僕もこの営業をしていたんだけど、さすがに早すぎてそれほど売れなかった。潜在顧客の中には「ユーザーに代表性がない」と言う人もいたような時代だった。でも彼の成長に加え、2005年頃から現経営陣が揃い始めて、だんだんと事業への投資が良いタイミングになっていった。
「ユーザー中心の市場を作って化粧品流通を変える」というのが彼らのミッションなので、これからは2007年から始めているリテール事業の「@cosmeストア」が鍵になる。ピュアなネット企業ではないが、それゆえに上場による資金調達は必然で、今後の動向が楽しみである。
最後になったが、おめでとうございます!