ロングテールは時間とともにどう変化するのか?

拙論文がWebで公開されました。今回は実務家の方になるべく早く読んで欲しかったので、早々にWebで公開される媒体を選択しました。ですので、よろしければご笑覧ください。紙では1ヶ月ほど前に公開され、すでに何人かの実務家の方から感想をもらっていますが、種々のインスピレーションをもたらす内容のようです。


『ロングテールの動態的分析』 
−「商品探索・発見ツールの拡充」は「テールの長大化」と「商品販売の分散化」をもたらすのか?−
掲載媒体は所属学部の紀要です。


単一事例の分析ですが、長期(今回は4年3ヶ月)にわたって動態的に分析している研究は希少です。結果はクリス・アンダーソンのいう「フィルタ」が拡充しても、テールはあるところまでは長くなるものの、さして太くならない。よって商品販売の分散化は全く起きていない、というものでした。業界特性も影響していますで、細かくは原典をあたってください。


以下は、あるネット販売サイトの責任者からの丁寧な感想です。許可を頂いたので引用しておきます。

Andersonの「コストが絶対的に安いのだから、全商品を揃えろ」という理論に従うのなら、テールが長くなり、かつ右の方が太くなれば、事業の収益性が向上するということになりますね。佐々木さんの論文での論理展開もこの考え方が前提になっていて、それは仕方がないと思うのですが、それゆえに実務者には若干の違和感があります。

現実は異なります。「コストの絶対的安さ」はデジタル情報財にしか通用しない話で、物財であれば、どうしても1ヶ月の管理コストは1商品あたり数十円はかかってしまいます。そして結局テールの一番右はつねに当該期間中に1個しか売れない商品であるはず。よって多くのネット販売の実務家にとってみれば、「全商品を揃えろ」というのはやはり乱暴な話で、「売上順位の上位から数えて何位の商品までを品揃えすれば、収支が最大化するか」という議論の方がはるかに現実的だからです。つまり面積=収益の最大化だけではなく、同時にコストや投資のバランスを考えなくてはならないのです。

ただし論理展開の一部に若干の違和感があっても、論文の最終的なメッセージには実務者としても大いに納得できます。おわりの方に書かれている推察も忙しい実務家には大局観を与えてくれて大いに示唆に富むと思います。