アーキテクチャの生態系

個別事例に対する鋭利な分析と、冒頭で広げたプランを見事に引き取った最終章の存在から素晴らしい作品になっていると思います。お勧めの1冊。余談だが、読みかけだった「プラネット・グーグル」を追い抜かして読了。

アーキテクチャの生態系

アーキテクチャの生態系

本書の特徴は以下のとおり。

  1. アーキテクチャ=情報環境に注目したサイトとコンテンツ分析を展開
  2. それぞれのアーキテクチャの関係を進化論的に分析
  3. アーキテクチャに注目しておきながら、しっかり人間と文化にも目配り
  4. 分析したサイトやコンテンツから日本社会論も展開

まず1と2だが、これは28ページの「アーキテクチャの生態系マップ」をみれば直感的に理解できるだろう。アーキテクチャという概念は濱野さんオリジナルのものではないが、これを分析の中心的な道具に据えて複数の事例を斬ってみたというものはこれまではないのではないか。さらにそのアーキテクチャの関係性を時間の流れとともに論じており、ここも新しい。


その進化論的分析の中で「意図せざる結果」ということばが出てくるが、これはアーキテクチャと人間や文化との共振関係を濱野さんが想定しているからだ。それが3につながる。そしてここまでの3つについては、濱野さんと私の研究の基本スタンスが近いという意味から肯定せざるを得ない(2人は同門です。さらに最近は体重も近づいています)。ケーススタディと称して分析が甘く、ほとんど単なる事例紹介にとどまる研究や、ワンショットのお手軽リサーチで勝手に将来を予測する類の研究を私は評価しないのだが、濱野さんの著作はそれとは一線を画しており、真摯さもある。


そして4について。これも、ウェブをろくすっぽたしなみもしないくせに、2次情報をたよりに的外れの若者論や日本社会論を展開する老いぼれた社会学者のそれよりも格段に面白く、説得力も相対的には高い。でも不満がないわけではない。


その不満とは「繋がりの社会性」を実現するアーキテクチャが日本独自だという主張。本人も最終章で触れているように、ツイッターやフレンドフィードのような海外発のサービスもあるわけだし、かのフランスでも他人に私生活を見られる/他人に私生活を見せる、というテレビ番組が過去に流行ったわけで、やや説得力に不足感あり。たしかにグーグルという台地からは派生しないサービスが複数日本で受けているという事実はあるにしても。


また「繋がりの社会性」にも、ケータイやmixiのように「(主として)事前に想定しうる相手との繋がり」とニコ動のように「不特定の相手との繋がり」の2種類あるようにも思うのだが。ニコ動のSNS化がどのような受け容れられ方をするのかも今後は知りたいところ。


あとは細かい点で4点。

  1. 2ちゃんの掲示板システムはスレッド「フロー」ではなくて、スレッド「フロート」でしょ。レスのついているスレッドが浮かび上がってくるから「フロート」だと思うのですが。たしかにこれが情報の「フロー」性を高めているわけですが。
  2. よくぞ言ってくれたというのは、西垣通さんの「グーグルは機械情報しか扱っていない」というのは正しい理解ではないという点。すべてではないにしても「人間が」張ったリンクの数で計算しているわけだから。
  3. 村井純が村田純になっているのはまずいでしょ(35ページ)。増刷されたら他にも数カ所あった誤植とともに直してください。
  4. 引用された経営学者(!)である私の論文の注の文が正確ではない。「「アドセンス」や「アフィリエイト」などの収益源が整備されたことによって、日本でもウェブサービスの運営コストが低下した」というのは明らかにおかしい。収益とコストの話は別だから、主節と従属節には因果関係はない。あと、はてなぐらいのPVがあればアドセンスでOKですが、通常はバナー(期間ないしはインプレッション売りの:以上はてぶコメントでの指摘を元に修正)広告の方が圧倒的に売上が大きく、アドセンスは付加的にしか過ぎません。ソーシャルウェア運営会社の事業持続可能性が高まったのはなんといってもコスト低下が大きいですね。