インターネットはいかに知の秩序を変えるか?

原題は“Everything is Miscellaneous”。「すべてのものが持つ種々雑多さ」という感じか。邦題の「インターネットはいかに知の秩序を変えるか?」はちょっと大仰だ。ちなみに副題は“The Power of the New Digital Disorder”。邦題はそのまま「デジタルの無秩序がもつ力」。

インターネットはいかに知の秩序を変えるか? - デジタルの無秩序がもつ力

インターネットはいかに知の秩序を変えるか? - デジタルの無秩序がもつ力

テッド・ネルソンは「人々は、物事を深く階層化出来るとか、分類できるとか、順序立てられるという素振りを見せているが、実際には無理だ。すべては深く複雑に入り組んで関係づいているのだ」と述べた。本書では「すべての物にその居場所が複数ある」と述べられている。松岡正剛は「情報はひとりではいられない」と述べているが、そんな話だ。


そう、そもそも世界は種々雑多な状態であったのを、我々が幾分それを不自然な形で整理してきたというのが筆者の主張だ。そして、インターネットで知の分類方法が変わる。文脈が価値を持ち、データにいろいろな文脈・メタデータを付加するメタビジネスが隆盛に向かうということも述べている。


著者は整理の段階を3つに分けて語る。


整理の第1段階:
物質それ自体を整理する。


整理の第2段階:
整理された対象物について、その情報を対象物そのものから切り離し、整理する。


整理の第3段階:
内容も内容に関する情報もデジタル化し、整理する。そして内容は、より多くの内容に関する言葉と関連づけられる。


たとえば第2段階では、本や写真をアルファベット順に索引カードで整理する。ただしこの段階での根本的な問題として、対象物に関する情報についてすべては記録できない、というものがある。


南北戦争マサチューセッツの兵士がライフルを横において戦場で食事をしている写真には、「南北戦争」および「兵士」という分類がつけられるだろうが、おそらく「マサチューセッツ」とか「兵器」「制服」「食事」「野外」といった分類はつかないであろうから、その写真を保管している場所の学芸員に、「南北戦争マサチューセッツの兵士がライフルを横において戦場で食事をしている写真があるか」と尋ねたら、写真を1枚1枚確認しないとならない、という例が挙げられている。つまり分類項目に含まれない情報を探す時には多大な時間がかかるわけだ。


ところが、仮にその写真がデジタル化され、またより多くの内容のメタデータもデジタル化されていれば(ここでは「マサチューセッツ」「兵器」「制服」「食事」「野外」といった分類もされるということ)、「南北戦争マサチューセッツの兵士がライフルを横において戦場で食事をしている写真」の検索が可能となる。また探し手が内容の一部を記憶しておけば、少なくともテキストデータであれば見つけることが可能となる(将来的には画像や映像もそうなる可能性は高いだろう)。


そして、筆者のお気に入りはFlickrだ。筆者の分類では第3段階に入るのだが、厳密には第3段階の進化版であり、私としてはなぜ第4段階に独立させなかったのかと疑問に思う。つまり専門家による分類の行為を必要としない点にFlickrの特徴はある。だから自然と「より多くの内容に関する言葉と関連づけられる」。


たくさんの人が勝手につけるタグ。写真という葉っぱは複数の枝にぶら下がっていて、ツリー構造やデューイの図書分類法とは根本的な発想が異なる。すなわち「すべての物にその居場所が複数ある」わけで、モノがデジタル情報と結びつけられることで、種々雑多な世界に我々は回帰することができるようになったというわけである。これが新しい秩序だ。


デビット・ワインバーガーの著書にはCluetrain Manifestoもあるが、それに劣らず知的な興味を刺激する本だ。ただウェブが(主に日本を想定)本当にテッド・ネルソンやティム・バーナーズ・リーが想定したような、リンクでつながる「知」を今現在どれだけ提供しているのだろうかという疑問を持つ私には、本書の舞台設定に不満が残った。普通の人のウェブ利用では、種々雑多な文脈を与えるリンクよりも、同義反復的なリンクの方がどうやら有効性(クリック)で優勢なように私は思うのだが、それはこの本が知の部分にのみ焦点を当てたということで良しとすべきなのかもしれない。

これまでのビジネスのやり方は終わりだ―あなたの会社を絶滅恐竜にしない95の法則

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