Long Tailというものを別の見方で捉えてみる

超生煮えのエントリー.明日からまた原稿を書くために篭るので,その前にメモとして預けておく.


「ネットの世界」って意外に狭いんだよ知ってる?
http://www.h-yamaguchi.net/2005/12/post_fed2.html


群集がいつも賢いとは限らない 「Wisdom of Crowds」の成立条件
http://mojix.org/2006/01/14/100147


「大衆は無知であれ!」 - メディアが作り上げる知の格差とマッチ・ポンプ
http://c-kom.homeip.net/review/blog/archives/2006/01/post_247.html


東浩紀の「ポストモダンの二重構造」とその限界
2006-01-17


といったエントリーやised@glocomの第7回設計研での近藤淳也氏の提示したスライドに対する鈴木健氏,東浩紀氏のコメント(東氏はこの文脈で「下流社会」ということばを出した)などに触発されたのが投稿のきっかけ.


僕は,Long Tailという現象は確かにインターネット技術による社会変化の本質的な1側面だと捉えている.けれども,国によって必ずしも同じことにはならないだろうという疑問を常々持っていた.


あえて単純化すると,日本において現時点で「ネット万歳」という人たちは,たいていの場合シリコンバレーが好きで,Googleが好きである.こういう人たちははてなのヘビーユーザーで,カリフォルニア・イデオロギーに支えられた人たちで,「アメリカが好き」という時には同国が持つフロンティア・スピリットみたいなものに共感する人たちが多いのだろう.Long Tailについても「いいじゃん!」とか「よか!」ということになる.


でもさ,ネットの世界は狭いというのが一点.いまネットを激しく使っている人たちはごく一部でしかない.


さらに,ここに日本人論の香りを少し入れると,僕はLong Tailってのは,Small Brainかなと思うのよ.このことばはまだ練られていないし,自分が考えていることを正確に体現していないのであまり良くないことは断っておく.「肥大し希薄化する脳」というほうが正確なような気もするし,「脳」ということばは,「頭」としたほうが毒が少ないようにも思う.誰か下記を読んだ人がよりふさわしいことばを考えてくれると助かる.


何を言っているかというと,情報へのアクセスが分散化するとか,アマゾンで多くの人が見向きもしない本が売れるとか,そういったこれまでの言説の背景には,人の自律した解釈能力を信頼する捉え方が見られる.その捉え方がLong Tailという少なくとも僕には正の側面が強調されたように聞こえることばを作ったのだと思う.


しかし逆に,実はある一部の人たちが情報技術をつかって知的な営為をどんどん重ねる一方で,多くの人たちは,どんどん考えなくなって動物的に情報に対して反応するようになってきているのではないかと考えることも可能だろう.少なくとも日本においてはね.だから実は例のグラフで頭は右側で,尻尾は左側という見方も成り立つのではないか.


つまり首長竜は実は右を向いている.首長竜の尻尾が長いというのはなんかポジティブなネーミングだけど,日本では,首長竜の脳みそがどんどん右に伸びつつ,小さくなっているんじゃないのという気もするわけだ.それがSmall Brainということ.「先鋭化する脳」というのでもよい.


でもこういうことをいうと「人間はみな賢いのだ」というような批判はあるよな.ということを少し考慮にいれると,確かに脳みその面積は大きくなるという意味で「肥大」.このことばには恣意性が入っているから「拡大」とか「拡張」といったほうがよいかも.そんで,希薄化というのは,頭の本当に右のほうを除くと,実は脳の部分は確かに面積は広がっているが,その中身はスカスカになっているんじゃないかということだ.「肥大し」は削除して「希薄化する脳」というのがいいのかな.「脳」へとらわれているのが間違いなのかもしれない.とらえどころのないものだが「心」とか「精神」なのかもしれない.あるいは胴体と頭が切り離されるということを東さんは言っているのだからそもそも絵として描くことが無理なのかもしれない.


実は,本日は神戸大学の小川進先生の話を聞いて,議論をする機会があったのだが,実はこれを通じて,「とりあえずでも,やっぱ書いておくか」となったのだ.彼のアメリカ留学時代の師匠であるフォン・ヒッペルが2005年に出した本にDemocratizing Innovationというのがある.翻訳もすばやくなされており,「民主化するイノベーションの時代」というタイトルになっている.


民主化するイノベーションの時代

民主化するイノベーションの時代


でもこの本の新聞広告を見たときに,日本人として「民主化」ってのは納得がなんとなくいかなかったのよ.分散化ならわかるけど.この民主化にはアメリカの個人主義が前提になっているのだろうが,日本ではそんなことは前提にはならんよ.だから「肥大し希薄化する脳」というのが僕のひとつの見方.自分でも当初混乱していましたが,頭は右です.尻尾は左.


もちろん,ネーミングの前に何が起きているかを正確に理解する必要はあるわけですが.まずは仮説としてそういうことばがあってもいいと思うわけです(と言いつつ,この考え方が危険なわけですが).「もうありますよ」ということも十分に考えられますね.単純に首長を英語で言うと,おそらくLong Headなのかな.英辞郎によるとごく普通にLong Neckみたいだ.


では,ちゃんと戻ってきますが,しばし篭ります.