マイクロソフトは侮れない Bingの戦略

去る11月21日に、東京大学 知の構造化センター シンポジウムに参加した。非常に興味深い集まりで、たくさんのインスピレーションをもらった。私的なメモはさておき、今回はビジネス的な観点から面白かったマイクロソフト・ディベロップメントの鈴木慶一郎さんの"Introducing Bing"という講演について書いてみる。


USではシェアがほぼ10%となったBingがSearch EngineではなくDecision Engineであるとポジショニングしていることは私も知っていた。また、買い物をするときには便利なようなイメージも持っていたわけだが、それがどのような戦略によるものかが明らかになった。


Googleと戦うためのBingの戦略は3つ。

  1. Great Result
  2. Richer or More Organized Alternatives
  3. Simplify Key Tasks


1つ目は"10 blue links"と呼ばれる1ページ目の検索結果に満足している人が25%のみということで、とにかくもっと優れた結果を表示しようという話。これは基本的にアルゴリズムでの勝負になるわけだが、twitterとの提携によるリアルタイム検索などもこの一環になる。


2つ目は42%の検索ユーザーは1ページ目の検索結果を見ながら検索語をRefinementしているという知見に基づくもの。つまり、このRefinementのパターンを解析することで、ユーザーにありがたがられるRefinementのパターンをBing自らが提示するということだ。その時にRichであり、More Organizedであることで差別化する。


たとえば有名人を人名で検索した後に、検索者はその有名人のニュースについて知りたい場合や、プロフィールについて知りたい場合や、壁紙が欲しい場合や、ファンクラブの情報が欲しい場合などが多いというデータがあるので、それを検索結果画面の左側にサブカテゴリーとして表示する。あるいは商品名で検索した場合には、スペック情報、レビュー情報、画像情報などをやはり左側にサブカテゴリーとして表示する。これがOrganizedということだと思う。また最近ローンチされたVisual Searchや、毎日変わるトップページの写真に埋め込まれた隠れサーチリンク(ホットスポットと呼ぶらしい)などがRichな表現による選択肢の提示方法だと思う。いつといつを比べたものかは定かではないが、このようなプレゼンテーションの結果、Refinement後の検索結果画面にたどり着くまでの時間を28%短縮できたそうだ。


3つ目はQuery件数ベースでは5%にあたるセッションが、時間では50%の長さを占めるという知見にも基づくもの。ではこのKey Tasksが何かというと、それはUS Bingのトップページの左側にある、Shopping、News、Maps、Travel、(それと鈴木さんはHealthcareとも言っていたと思う)、である。直感的には確かにこういうケースは長いセッションになると合点がいく。


日本人のShoppingであれば、まず楽天に行って商品名で検索するか、あるいはカカクコムにいって価格の相場を確かめたり、レビューを見たりする。それでいったり来たりして検討する。旅行であれば、楽天トラベルに行って検索するとか、ホテルのレビューを見るなどする。またブログ検索などで滞在記を探したりする。で、けっこう熱心に読む。このようなVerticalな専門サイトに行ってからの検索をすべてBingで完結させようというのその戦略だ。


実際にBingのTravelに行くと、デフォルトで現れるのはFlightのFrom×× to××という2つの検索ボックスである。これは構造化されたデータをある程度限定されたサイトから集めてくるのだと思うが、このクロール対象サイトを増やしたり、Key Tasksの範囲を広げることで、5%のQuery件数でのシェアを7%にまであげたらしい。つまり滞在時間でいうと、50%というのが55%程度にまで対象になったというような状況だろう。この50%超のセッション時間を占有するKey Tasksに焦点を絞って、Decision Engineと謳っているわけだ。Invisible Webと呼ばれる、通常はクロールできない専門サイトはたくさんあるわけなので、これらとうまく提携していけば、たしかに汎用検索エンジンに比べて大いに優位に立てる可能性はある。


人の習慣を変えるのには時間がかかる。またGoogleがBingを模倣することも十分ありうる。だが、「今、世界で本気で検索をやっている会社はGoogleとMSのみ」(Qi Luという検索界のカリスマがMSにYahoo!から移籍し、エンジニアの移動が起きているらしい)であったり、「マイクロソフトはFirst moveを誰か他の人にやらせて、ニーズやメカニズムが顕在化したところで自ら本気で参入し、Ver.3ぐらいで追いついたり逆転するのがこれまでの歴史」という鈴木さんの発言を聞くにつけ、この戦略によって、まずはYahoo!やAskのシェアを奪ってけっこうじわじわQueryベースでのシェアを上げるかもなという感想を持った。