ネットメディア企業の成長性についての雑感

「ネットメディア企業の成長もいいかげん手詰まりになってきたようだ」というのが、最近、関係者数名の話を聞いた率直な感想である。


メディア企業というからには、彼らの収益源は主として広告媒体収入である。メディア企業というからには、彼らのユーザーベースは大きく、それゆえ主力商品はバナー広告になる。ではバナー広告を出す広告主が何を基準に考えているかというと、CPCだそうだ。バナー広告の表現力というのは中途半端に映るようで、検索連動型広告のキーワード単価とほぼ同等な感覚でCPCは比較されるらしい。


CPC(Cost Per Click)の時代へ - 観察・実験ノート でも書いたが、1年近く経過して、CPCは●●円(昨年のエントリーと同じ数字ですが、2桁という訳ではありません)という金額を下回るようになってきているようだ。もちろんすべてのネットメディア企業に対して、このような論理が要求されているわけではなくて、「この商品分野においてキャンペーン展開するなら、ネットではここは外せないな」というようなサイトになると、このCPCは下げ止まっているらしい。ショートヘッドに位置していれば、希少性がまだ価値の源泉になる。が、「その他諸々」になったとたんに、検索連動型広告のキーワード単価との比較に陥るらしい。


また「この商品分野においてキャンペーン展開するなら、ネットではここは外せないな」というようなサイトであれば、もう一つの大きな収益源がある。雑誌において広告特集、記事広告、タイアップ広告と呼ばれるようなものである。こちらの説得力や表現力は広告主にも理解されているようであるが、どれだけ読まれているのかという不安が広告主にはあるようだ。ただし、比較対象が雑誌のそれなので、まだまだ価格競争には陥っておらず、やり方次第では収益は伸びるようだ。ただし、PVがマクロ的に見て減少したのは周知の事実であり、もともと市場規模も大きくないので、成長の限界が訪れるのまでの時間が短いのかもしれない。


AdSenseに代表される成果報酬型広告は、1つのサイトがどれだけページ数を持っていても、収益の合計は10億円という単位には届かない。この手の広告をネットワークに配信する事業者の収益の大きさを見れば、これは明らか。メディア企業の話ではないが、ネットワーク配信事業者も、そのコストの大きさから収益性の高いビジネスにはなっていない。スケールメリットが働くとすれば、1ヶ月のPVの合計が200億というあたりをクリアしないといけないように思う。


ケータイ広告については将来性が期待されるものの、広告メディアとしての価値があるのかについて楽観的な方とそうでない方とがいた。たしかにPVベースではケータイがPCを上回っているサイトは多い。けれども収益ベースでは、まだまだPCの方が大きい。ではこれから収益が大幅に伸びるかと言われるとあまりそういうシナリオを私は想定できない。


というのも学生の話を聞いても、彼らが携帯端末でのネット接続で求めているいるのは、コミュニケーション(という行為そのものや内容を伴ったもの)であり、情報ではないからだ。広告はむしろあまり目に入ってこない。むろん、携帯端末のみでネット接続をしている人もいるわけで、彼らにとっては情報も必要だろうからという論法もなりたつが、彼らの可処分所得はそれほど大きくないから収益上のインパクトはあまりないのではと考えられる。


つまるところ構造としてはそれほど昨年と変わっていないが、下方修正圧力は昨年よりも強まり、成長余白が狭まってきたという感じだ。広告のPVを増やすためや、成果報酬型広告をクリックさせるためにポイントを付与するというモバゲーの手法が一時期であれ減速したということはけっこう大きな話のように感じる。むろん、これはモバゴールドを直接現金でユーザに買ってもらうビジネスモデルと、媒体価値をあげてもらって法人からお金をもらうビジネスモデルの効率性の問題だが。


以上は広告の話だけである。したがって、ユーザーを横展開し、広告事業以外の事業へとレバレッジを利かせられれば成長可能性は高まる。告白すると、私が冒頭の感想を持ったのは、成長を目指す某経営者が「ネットの最大の貢献は、好きなことを5〜10名の仲間と気張らずにやって、それでも組織として回る仕組みを生み出したことだろう」とポロっといったことが大きい。