Greeの荒木英士氏講演と日本技芸の御手洗大祐氏講演

金曜日の授業では、Greeの荒木氏(GREE)、日本技芸の御手洗氏(http://www.huis.gr.jp/~mitarai/)をゲストに呼んで話してもらった。

荒木氏の講演は「ウケるネットサービスの作り方」がそのタイトル。「今回の話を踏まえて、これからの個人向けネットサービスに重要だと思われるコンセプト(できるだけ具体的な)を1〜3つとその理由を考えてください」という課題を授業の開始時に提示し、これを最後の15分で書いてもらうという企画である。

Greeを例にとった場合の荒木氏のメインメッセージは、「オープン&シェア でも島宇宙」というもの。オープンというのは、名前を実名で出したり、自分の写真を掲載したりという意味でのオープンであって、アーキテクチャやインターフェースのオープンさではない。「でも島宇宙」というのが重要で、これは先週の信頼と安心の話では安心の範疇に入る考え方だ。1995年にニフティサーブのフォーラムを「ネットワーク・コミュニティ研究会」というので研究対象としていたが、そこでもフォーラム間をつなぐ機能や人の不足を感じて、コミュニティの編集をどうするかと考えたものだったが、Greeも似たような状況にあるという感想をもった。ただしGree側にはコミュニティの編集という指向は乏しいように思う。下手にブリッジするなら島宇宙でも良いというような方針を感じた。

課題に対する学生の回答としては、「安心」というのがやはり多かったが、閉じた空間となる安心空間について懐疑的な回答もあった。どちらの考え方も正解とは言えないが、間違いとも言えない。引き続き考えていってほしい。もうひとつは「多様性」と「ランキング」という相対するキーワードが相当数出ていた。盛り上がりを醸成する際にはランキングという圧縮情報は欠かせないが、そこで抜け落ちる多様性をどう担保するのかというような話。テーマ的には、2限の情報産業論になるのかもしれないが、お金になりやすいサービスとウケるサービスと望ましいサービスは違うということである。あとは、少数だがネット上のコミュニケーションがリアルな世界の活動に反映されるようなものという回答も。これは事業化するのは難しいが重要なポイントだと共感する。

2限は御手洗さんの自分史を中心にインターネットビジネスについて語ってもらう企画。特に課題は設けなかったが、授業の最後に

  1. これから成長すると思われる小さな会社に入りたい
  2. 安定的な大きな会社に入りたい
  3. 自分で会社を作りたい

という3つの選択肢を提示し、手を学生に挙げてもらったところ、3.はさすがに5名程度だったが、1.と2.がほぼ同数となった。

私が御手洗さんの講演と絡めて学生に伝えたかったことは、1.から3.については各人の向き不向きがあるから各人が選べばよいのだが、どの選択肢を選んでも、かなりの割合で「ネット的な生き方」(御手洗語録)を余儀なくされるということだ。では「ネット的な生き方」とは何か。それは謙虚になり、自分で考え何かを発信し、仲間を見つけ、仲間から学び続ける生き方ということだ。15年前ならば、2.を選んだとすれば「ネット的な生き方」を指向しなくてもなんとかなったけど、今ではそうはいかない。逆に1.とか3.については「ネット的な生き方」をすることで、15年前に比べて大きくチャンスが広がるようになったということだ。このことが変化する具体的な産業構造を取り上げていたものの、実は情報産業論を通じて一番学生に伝えたかったことだ。

ちなみに学生からのコメントに「佐々木さんの授業は1限と2限の内容がごっちゃになってしまってわかりにくい」というのがあった。「わかりにくい」のはこちらのスキルの問題であることは認めるとしても、「ごっちゃになっている」感が伝わったとしたら、まずは第一関門突破なのかもしれない。手前味噌になるけれど、「ネットワーク・コミュニケーション論」と「情報産業論」をごっちゃにしながらしゃべれる人はあまりいないと思うよ。コミュニケーション学部を出るのなら、ごっちゃに語れるように学生にはなってほしいので、「わかりにくい」点をこちらはだんだん改良していきますよ。